ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

アサマイチモンジ飼育日記ダイジェスト

 

 

 スイカズラのお話(花物語 スイカズラ;連れてこられた花嫁はそれでも幸せになりました - ジノ。)を読んでからご覧いただくとよろしいかと。

 


 とうとうアサマイチモンジがうちの庭で産卵してくれました。チョウを育てるためにスイカズラを採ってきて,そこで根付いたスイカズラにチョウが飛んでくる。一つの大循環が完成したと一人ほくそ笑んでおりました。


 このまま我が家がアサマイチモンジの大発生地になったらうれしいなとか思いながら,産み付けられた6個の卵を大きくなれよふゅふゅふゅと言いながら見ておりました。


 ところが。


 この最初の産卵は,チョウにも私にも失敗だったようです。卵は数日後に次々と孵化したのですが,生まれた一齢幼虫はみな翌日には姿を消していました。ふつう幼虫は卵を産み付けられたその葉の先端部に移動して食べ始めるので,消えたのは自発的移動とは考え難い。おそらく捕食されたのでしょう。多くの昆虫では,孵化直後の死亡率が非常に高い。ましてやうちのスイカズラ,あらゆる虫に好かれまくって茎のてっぺんから根の先までバトルロワイヤル状態。何の芸もないアサマイチモンジの幼虫なぞ,さながらヘビー級タイトルマッチに放り込まれた私みたいなものだったと思います。


 こりはイカン。大発生どころか大虐殺の現場だ。そこで次に産み付けられた3個の卵は,私が室内飼育することにしました。四十年ぶりのアサマイチモンジ飼育だ。


f:id:xjino:20180225164500j:plain  一齢幼虫。全長2ミリありません。


f:id:xjino:20180225164540j:plain    これは何かというと,一齢幼虫が二齢に脱皮した時の頭部のカラだあ。

 

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 二齢幼虫,脱皮直後。

 

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 二齢幼虫,脱皮直前。

 

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 三齢・四齢を飛ばして五齢(終齢)幼虫の前蛹。

  

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 そして蛹。

 

 

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 羽化直前の蛹を庭のスイカズラに付けてやりました。なるべく自然状態で羽化するように。ヒトに慣れないように。

 

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 羽化しました。

 

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 これが日本の本州特産種,アサマイチモンジ。浅間一文字と書きます。里山のチョウです。最近減少しています。


 1頭は残念ながら羽化失敗で死んでしまいましたが,残り2頭は無事に空のかなたへ飛び去って行きました。こんな市街地に戻らなくていいから,どうか子孫を残すまで生き抜いてください。


 こうして,本来死ぬはずだった2個体を野に放ってしまいました。そのことがどんな影響を及ぼすのか。生態系のみならず,世界の気候や国際政治にまで変化を与えてしまった可能性があります。おお,これぞバタフライ効果。因果が因果を産んで世界核戦争が起こったら面白いのに。←こらこら

 

 

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宵闇のネムノキの森を抜けて

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 数年間,水戸から日立に通勤しました。


 二つの街は距離30キロ,国道6号1本でつながっているのですが……使えません。この道沿いには日立製作所関連の事業所が並び,特に日立市内は海と山に囲まれた幅2キロの市街地に道路が集中します。毎朝絶望的大渋滞。


 なので,時間的に余裕の無いときは常磐高速道,ふつうは水戸から国道349号を北上し,阿武隈山地を横断する山越えルートで通いました。


 これが実は楽しかった。毎日毎日,季節の移り変わりが手に取るようにわかるのです。ヘアピン続きの峠攻めももちろん楽しいのですが,春先ならコブシやヤマザクラ,あれあんなところにフサザクラが。夏なら緑陰に蝉時雨。秋には紅葉。そして帰り道は,不思議にもこの時の数年間ずっと夕暮れの空に金星があり続けました。宵の明星が指し示す西を目指してアクセルを踏むのは独特の高揚感がありました。片道1時間15分の車通勤が少しもつらくなかった。


 この道筋で見たことを掘り返せば色々とブログネタになるのですが,今回はその一つを。

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 ネムノキ(合歓木)は芽吹きの遅い木で,他の木が枝葉を広げた後も冬枯れの姿をさらし続けます。じらすタイプです。初夏の夕暮れ,おしべばかりの赤いポンポンのような花を咲かせます。もっとも,赤いのはおしべの先端部だけで,下半分はほの白く,宵闇の中ではこの白ばかりが目立ちます。峠越えの枝道の一つにネムノキが続く道があって,まるで葉の上でたくさんの白い「何か」が走り去る私を見送っているようでした。あ,ちょっと怖い。

 

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 たまたま接写機材を持っていた日があって,そんなネムノキの花を撮ってみたことがあります。撮ったら意外に面白かったので。

 

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 安物の機材でも結構遊べますね。

 

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 これでマメ科なんだよなあ。エンドウの花とは似ても似つかないのに,昔の分類学者はちゃんと見破っているんだよなあ。

 

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 全部おしべに見えますが,ところどころ先端が細くて黄色くないのがあってそれがめしべです。

 

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 不思議な花ですね。実は花弁もあるんだけど,完全に埋もれてます。


 本当に接写に取り組むならオリンパスのOMシリーズで機材を揃えたいところですが,なにせ高価です。買えない値段でもないところがまた悩ましい。定年後の楽しみにでもしようかと。そういえば「タモリ倶楽部」の鉄道回でタモリが取り出した私物カメラがOM-Dだった。さっすが~タモリさん!なんて「ブラタモリ」をつまんなくしているセリフをかましたり。

 

 

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どこか遠くの神さまが

 

 今日いつものフィールドに出かけたら,湧き水のところで何か作業している男性がいました。ワイシャツの上に作業服,職員の方とは想像がつきました。


 挨拶して聞いてみると,ここはサンショウウウオの産卵場所なのだとか。他所では卵嚢や幼生を見ましたが,へえ,ここも。

 

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             卵嚢です

 

 その職員さんが言うには,周辺何か所かで見つけた卵嚢を保護しては,孵化させて放しているのだと。 ……この人が守っていてくれたのか。

 

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          産卵に来たメス

 

 保護団体の意見を聞いたり,セミナーに参加して調査法や保護の方法を勉強したり。ちゃんと知識をお持ちでした。この人,本物だ。


 さらに聞くと,サンショウウオ以外でも,キキョウなどの草原性植物を守るための草刈りもこの人が関わっているらしい。えええっ。


 私がここでキキョウオミナエシジュウニヒトエエビヅルオケラキンポウゲスズランクルマアザミセンボンヤリツノトンボクロアナバチトウキョウサンショウウオを見ることができるのはこの人のおかげなのか。


 草刈りや水場の維持がきちんと計画的に成されているのは知ってました。現場で刈払い機で作業しているおじさんたちも知ってます。でもそれをつかさどっているのは誰なのか。なんとなく,どこか遠いところにいる神さまがやってくれてるんだと思ってました。まさか人であったとは。


 本当はそのお仕事の成果を詳しくお知らせしたいのだけど,例えばサンショウウオも,産み付けられた卵嚢が無くなったと思ったらネットオークションに「〇〇のサンショウウオ」と称するものが出品されていたことがあったりして,やはりこの世にはこのテの人がいることを前提にしなければなりません。これからも「いつものフィールド」として,場所はぼかしながら紹介させていただきます。


 とまれ,お会いできてよかった。ここの生き物を守ってくれている人がいる。それが知れただけでも今日の収穫です。本当に感謝しています。


 名刺交換してわかったのだけど,私の勤め先とも縁のある方でした。世の中繋がっているんだなあ。

 

 私がここで毎年会えることを楽しみにしているものを列挙しておきます。私なりのお礼として。私は本当にここが大好きです。

 

 アキノキリンソウf:id:xjino:20180214203304j:plain


 アマドコロf:id:xjino:20180214203353j:plain

 

 ウツボグサf:id:xjino:20180214203411j:plain


 エビヅルf:id:xjino:20180214203457j:plain

 

 オケラf:id:xjino:20180214203534j:plain


 オミナエシf:id:xjino:20180214203603j:plain


 カセンソウf:id:xjino:20180214203644j:plain


 キキョウf:id:xjino:20180214203722j:plain


 キンシバイf:id:xjino:20180214203743j:plain

 

 キンポウゲf:id:xjino:20180214203814j:plain

 

 クルマアザミf:id:xjino:20180214203840j:plain

 

 コマユミf:id:xjino:20180214203904j:plain

 

 ジュウニヒトエf:id:xjino:20180214203928j:plain


 スズラン

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 センブリf:id:xjino:20180214204037j:plain


 センボンヤリf:id:xjino:20180214204056j:plain


 ナワシロイチゴf:id:xjino:20180214204125j:plain

 

 ニガナf:id:xjino:20180214204155j:plain


 ヤマツツジf:id:xjino:20180214204208j:plain

 

 ヤマユリf:id:xjino:20180214204233j:plain

 

 ヤマラッキョウf:id:xjino:20180214204250j:plain


 リンドウf:id:xjino:20180214204408j:plain


 そして……


 トウキョウサンショウウオf:id:xjino:20180214204436j:plain

 

 守り手とは,いつも密やかなものです。声を上げることもなく。功を誇ることもなく。この世が何とか保たれているのは,きっとこの世のあちこちに,そんな人がいてくれるからなのでしょう。それはやはり,どこか遠くにいる神さまなのだと思います。言葉そのままに。

 

 

 

 

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とても遠くがみえた日

 

 1年前の1月28日の写真と文章です。今日,公開させていただきます。1年くらい時間が必要だったので。最後の一文への疑問に対するお答,先に言っておきます。「大丈夫でした」

 


 二十年来お世話になっている自動車整備工場が,国道245が那珂川を渡る湊大橋のたもとにあります。12か月点検をお願いしに行きました。3時間ほどかかるので,いつもは折り畳み自転車で大洗までぶらつくのですが,今日は橋を渡って那珂湊の街を歩いてみようと思い立ちました。


遠くが見える

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 湊大橋の上から気づきました。今日は遠くが見える! 関東平野とはいえ通常視界は限られるのですが,今日はえらく遠くが見える。何と100キロかなたの日光連山がくっきり見えるのです。こんな日はひと冬に何度もないでしょう。ああ,今日こそ鶏足山に行くべきだった。きっと浅間山八ヶ岳も壮大に見えたことでしょう。(鶏足山にて - ジノ。もご参照ください)

 

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 女峰山

 

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 大真名子山を中心に。

 

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 男体山 半分隠れているけど奥白根も! ああ鶏足山から見たかった。

 

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 水戸の街を前景に足尾の山。白く光っているのは鉱山の煙害で木々が枯れ果て,降った雪がそのまま見えるから。同じ銅山でも,地元と協力して煙害を防いだ日立鉱山とは異なる歴史を歩んだその名残です。


カモたちf:id:xjino:20180211182810j:plain
 那珂川も河口近く,波は穏やかでカモたちが群れてます。ホシハジロカイツブリや。

 

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 カンムリカイツブリでしょうか。


モノポリー

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 モノポリーだ! モノポリーの家だ! 本当にあったんだ!


水栓

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 那珂湊あるある。旧市街のあちこちにこんな水栓があって水が出ます。


水神さま

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 これも那珂湊あるある。古い漁港の街らしく,水神様が祀ってあります。


お寺

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 広い墓地を持つお寺。ずっと昔から海で暮らす人たちとともにあったのでしょう。


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 お墓の写真なんて。でも陽光にきらめく様子があまりにキレイで。


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 暖かい冬でした。梅がもうこんなに。


ねこ

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 窓際にねこがいました。暖かな窓際に安らぐねこがいる一方で,極寒の県北山地に野生で暮らすノネコがいます。たぶんノネコが生きる苦労に嘆息することはないだろうし,この飼い猫が我が身の安寧を喜ぶこともないでしょう。ねこにはただ目の前の現実があるだけ。ねこは幸せな生き物です。


お不動さま

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 お不動さまがありました。小さいながらもちゃんと集会所まであります。

 

 ひとつお参りしておこうかと入ってみると,集会所にはたくさんの人が。私に気付いた一人が,今日はお護摩のある日です,いかがですかと誘ってくれました。これもご縁かなとも思ったのですが,整備工場に戻らねばなりません。丁寧にお断りして,お参りだけさせてもらいました。

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 お堂の扉が開いてます。今日だけのことのようなので,巡りあわせはよかったかと。

 

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 小さいながらも大事にされてそうな不動明王が。

 

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 お坊様をお迎えする準備もできています。

 

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 またご縁があればぜひ。


地蔵堂

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 そんなお不動様がある一方で,こんな打ち捨てられたような地蔵堂が。神仏は人に敬われてこそ,と思います。

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反射炉

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 水戸藩の作った反射炉を,同じ場所に形だけ複製したもの。

 

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 お恥ずかしい郷里の史実。そう,自分たちで打ち壊してしまったんです。

 

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 桜田門外の変を引き起こした水戸藩。いまだに井伊大老の地元彦根の人からは恨まれてます。あれで明治維新が早まったのかどうかは知りませんが,その後水戸藩内は2つの派閥に分かれて内紛,殺し合いに明け暮れます。幕末に3700人いた藩士が,明治初年には800人しか生き残ってませんでした。念のため言っときますが水戸藩戊辰戦争に関わってません。すべて藩内で殺しあった結果です。水戸人のダメさ加減の良い証左のようで,本当に情けない。

 

 そんな事にまで思いが及ぶ,那珂湊は古い時間と空間の残り香が漂う街です。何か,忙しい日常から切り離されたような不思議な一日になりました。本当に遠くがみえた日。

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 今度,入院して手術します。ガンかもしれません。

 

 

 

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人間ドック。

 

 そんな訳で(いきなり何だ),昨年の手術の元になった人間ドックに,今年も行ってきました。今年はもうコワくないぞ。だって胆嚢無いもん。残り全項目A判定だ!


 実は昨年まで7年間,ずっと胆嚢ポリープを指摘され続けていました。ポリープが年々大きくなってます,どこかで取らなきゃね,と。


 で,とうとう昨年,紹介状持たされて手術に行ったのでした。大きくなっているというのはガンの疑いもある訳で,全身麻酔の開腹手術。目覚めると胆嚢が消えてました。痛い思いもしました。でもおかげで今年はサッパリ。自慢じゃないけど検査値「奇跡の50代」の呼び名はダテじゃありませんぜふゅふゅふゅ

 

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 検査も終わり,結果が出るまでに食事を。ドック後の食事の豪華さを売り物にする病院もあるようですね。ここ茨城県メディカルセンターの「笠原御膳」。とっても美味しゅうございました。


 こんなブログですが,もし若い人が読んでいてくれるなら。ありきたりだよ。とにかく人間,健康が第一。いくら地位が上がろうが,いくら収入が増えようが,健康を損ねては何にもならないんです。タバコは吸ってはいけません。大酒も控えましょう。大食い・早食いはロクなことになりません。検査は受けましょう。睡眠を十分に規則正しい生活を。できれば運動を。


 年相応のお説教でした。ごめんなさい。

 

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 私のイベントのある日はいつも晴れ。有難いことです。神さまはまだこっちに来なくていいよとおっしゃっているようで。この命,大事に使います。

 

 

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ツノトンボが征く  【超絶虫本気】

 

 2014年の夏は,とても寒い夏でした。東北でいうところの「やませ」が吹き,茨城の海沿いは霧に覆われ,水戸にも冷たい東風が吹き過ぎていきます。

 

 その日私は,いつものフィールドの草地で草原性植物の姿を追っていました。ここで唯一のオケラの株が草刈りされてしまったので,他に無いものかと,毒毛虫に気を付けながらまだ刈られていないやぶに踏み入っていました。f:id:xjino:20180204124929j:plain

 オケラ。好きな花です。

 

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 キキョウ咲くやぶ。

 

 オギの大株やコナラの実生をかき分け,キキョウアマドコロを踏まぬように避けながら進んで行きますと,目の前についと伸びたワレモコウの花茎。その茎に,何やら昆虫の卵らしきものが産み付けられています。細い花茎にまるでオヒシバの穂のように2列になった長卵型の,コマドリの羽のような色の卵です。長径2ミリ超,短径はその半分の,昆虫の卵としてはかなり大きなもの。当初はヤママユの類かとも思いましたが,はてワレモコウ……? かの優美な蛾の類の食餌植物とは思えない。

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 ワレモコウ。これでもバラ科

 

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 他に無いものかと見渡すと,やぶの中にまたひゅんと伸びたワレモコウ。見るとまた同じような卵が付いてます。……ん?違う。何か黒いものが付いている。


 当時の愛機「ザクティ」を構えながら近づいて,あ,と小さく叫んでしまいました。遠い遠い昔に見た図鑑の1ページ。脳内でセピア色に変色しつつも大切に保管してある古い写真。こと生物に関しては,ものすごい記憶力と検索能力を発揮するわが脳髄です。 ……これはツノトンボだ。

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 雌でしょうか。そばに親がいるのも確認しました。


 ツノトンボというショッカーの怪人みたいな名の昆虫をご存じの一般人はまずおられないかと。トンボと付いてますが,ウスバカゲロウクサカゲロウに近い仲間です。大きな黒い目,長い触覚,透明な翅,軟弱なボディ。ぐにょりとした毛むくじゃらの体以外,個別のパーツでは昆虫として特に問題は無いのだけど,総合的には何かイヤ,という評価の虫です,個人的に。成虫は灯火採集にも飛来するので特に珍しいという印象はないのですが,その幼生時代のものは初見です。最初にあったのが卵,そしてはるか昔に図鑑で見たままの,これが幼虫。孵化したばかりで,まだ卵殻の上に乗ってます。きょうだいでずらりと。一連30数個のこの一つの卵塊が,一匹の雌のその一腹の子なのでしょうか。一匹一匹がアリジゴクに似た姿,黒いつぶらな瞳。ぼくツノトンボでしゅ。生まれたばかりでしゅ。みなしゃんよろしくでしゅ。


 さあではその姿をご覧ください。ツノトンボの赤ちゃんです!

 

 

 

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 かわいくない。かわいくないよ。

 何がでしゅだ。

 アップにしたら虫好きの私でさえ引いたぞ。


 だいたい何だその大きさ。卵のサイズと合ってないだろ。

 

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 あ,トゲやアゴはあとから伸びるのね。


 一齢幼虫にしてこの姿は驚異です。全身重装歩兵逆アイアンメイデン。生まれたての我が子をここまで武装させる親とはどんなものかと思います。


 ギリシャ神話のヘラクレスは,生まれてすぐに刺客の蛇を握り殺しました。釈尊は摩耶夫人のわきの下(おいおい)から生まれてすぐに「天上天下唯我独尊」と言ったとか。こんな超人たちならともかく,この凄絶な世界に生れ出たばかりの生命は本当に儚い。まるでその冬に最初に舞い落ちる雪の結晶のように,淡く飛ぶシャボン玉のように。だから親は子を守ります。それこそ命を賭して。


 マダコの母は絶食しながら卵を守ります。そして孵化した我が子が次々と大海に旅立っていくのを見届けて,静かに微笑みながら死んでいきます。蛇蝎だかつのようにと嫌われるサソリ。でもある種のサソリの母親は,卵から産まれた数十匹の我が子を背に乗せて運び,守り,そしてついには旅立つ子らに自らの身体を食べさせて死んでいきます。愛を謳うこのブログですが,不覚にも私は愛の定義を知りません。でもこれを愛と呼ばずして何としましょう。ヒトの親で,我が子を炎天の車内や極寒の山中に放置して死に至らしめる者がいます。絶えざる暴力を与え続ける者がいます。サソリにも劣る万物の霊長

 

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 ツノトンボの親は,子を親が守るという習性を獲得できませんでした。その代わりに,子をいかつく武装させました。この武装は,外敵を防ぐとともに,肉食昆虫の常としての共食いを抑止するためのものでしょう。幼虫の食性はたぶん近縁の同類と同じく,大あごの先端を他の昆虫に突き刺して消化液を注入し,すすりこむという方式のはず。トゲはちょうど大あごの攻撃を阻止できる長さです。それにしても,もしこの一連30数個の卵が一匹の雌の産むすべてなら,昆虫としては少なすぎです。一匹の雌が産んだ子が2匹生き残れば種族の維持ができるとして,もし2/32なら生殖生存率6.25%。ひょっとすると野良猫より高い。とすれば,この武装が十分に機能しているのでしょう。

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 それにしてもまあ,このワレモコウにびっしりと付いたきょうだい達をご覧ください。ものすごい迫力ですね。あるものはワレモコウの花にすっぽり入って獲物を待ち,あるものは茎に折り重なる。ここに近づいて誰が無事で済みましょうか。少しでもワレモコウに触れて揺らすと一斉に大あごをきしゃーっ!と180度に広げる姿の恐ろしさったら。生き残ってやる,生き抜いてやる。そういう気迫,生存への執念にぎらついて黒い目が光ります。ヒトのニートの子の焦点の定まらないうつろな目となんと対照的なことか。

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 数日後に再訪すると,きょうだい達の姿はあのワレモコウから消えていました。まあ肉食生物が生きられる密度ではなかったし。誰かの合図で一斉に茎を下りて,この広く美しく残酷な世界に分散していったのでしょう。小さな虫にとって無限に広いこの大地を,どこまでもどこまでも歩いていくのでしょう。迷いも恐れもなく,誇らしげに大あごを振りかざしながら。


 この観察をした翌年の2015年も夏が冷涼で,またツノトンボの産卵が観察できました。しかし以後2年間,彼らの姿を見ておりません。やはり気温が関係しているのでしょうか。それとも別の理由で,ここの一族は滅んでしまったのでしょうか。この小さな虫の運命が,気掛かりでなりません。

 


追記
 サソリの逸話は他への転記をご遠慮ください。間違いなく,昔読んだ専門の本にその様子が写真付きで解説してあったのですが,今回ブログに記載するに当たりネットで検索しても,そのような記事がありませんでした。未確認情報とお考えください。

 


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ザゼンソウが開花しました 遠い氷期を夢見ながら

 

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 ザゼンソウです。近縁のミズバショウ同様,北辺の湿地に咲く花です。あずき色の部分は花びらと認識されそうですが,正しくは「仏炎苞」。中の丸いのが花の集まり「花序」。サトイモ科独特の不思議な構造です。


 寒冷な気候を好むのですが,温暖な茨城県の平地でも水戸市東海村に自生地があります。でもそれ以外に,多分地元の人以外は私しか知らない,秘密の産地があるんです。秘密だよ。

 

 ザゼンソウの花期は本来の北国では3~4月。花粉を虫に運んでもらう虫媒花です。まだ寒い季節ですが,ザゼンソウは巧みに虫を呼びよせます。なんと発熱するんです。開花の時を見計らい,ミトコンドリアを総動員して,仏炎苞の内部を20℃以上にするとか。寒がりの虫たちは喜んで仏炎苞の中を歩き回り,受粉させます。見事な作戦です。しかし茨城ではこれがうまく行きません。雪のない茨城ではザゼンソウは1月に咲いてしまうんです。真冬です。朝は氷点下です。たぶん虫なんかいません。やはりここは,ザゼンソウの本来の生息地ではないのです。

 

 茨城では受粉→有性生殖が成立しづらいという弱点がある上に,私の秘密ザゼンソウ産地には別の問題があります。……実は近年,ザゼンソウの花付きが良くありません。花が咲かない。最後に開花を確認したのは2010年のことでした。原因は日照ではないかと思っています。そこは台地の斜面から地下水が湧出する湿地帯。北国の産地の写真を見ると,ザゼンソウは日当たりを好むようです。ここもかつては大量の湧水のおかげで他の植物が繁茂することは無かったろうと考えられます。ところが台地の上が開発され,雨水が下水に流れるようになると湧水が減りました。湿地には樹木が生えるようになり,日陰になったザゼンソウは花を準備するほどの十分な光合成ができなくなったのでしょう。上述のようにザゼンソウの開花には大量のエネルギーが必要なのでなおさらです。


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 公園に植栽されたもの。本当はこれくらい花付きがいいんです。


 で,毎年確認に行きます。今年も期待せずに行ってみました。


 年々やぶがひどくなります。水が地表を流れるあたりを歩き回るのですが花は見つからない。先日の雪も残り,低温注意報も発令中。寒いよー。ハナ垂れてきたよー。


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 次々見つけるのはやはり葉芽。花芽があればもう開いているはずです。

f:id:xjino:20180128143738j:plain ……と思っていたら


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 あったー! 久しぶり。


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 落ち葉に埋もれていました。落葉樹の茂るこのフィールドのザゼンソウは気を付けないと踏んづけてしまいます。

 

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 もう一株。そうかそうか,何とか花を咲かせたか。ああよかった。

 

 美しいとは言い難い花ですが,独特の魅力があります。人間にもそういう人っていますよね?


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 このあたりのザゼンソウ氷期の遺存分布だといいます。最後のウルム(ヴュルム)氷期は7万年前から1万5千年前まで続きました。亜寒帯の植物が西日本にまであったこの時代に,ザゼンソウもまた南方へと分布を広げます。そして間氷期の温暖な気候になり,澄んだ冷涼な風に染む植物たちが北へと去っていったとき,取り残されたものがいたのです。冷たい湧き水を最後の拠り所として,巡りくる炎暑の夏を耐えること1万5千年! 7千年前の温暖期をも乗り越えて,生き続けたささやかな一族。


 何年も何年も養分を蓄えてやっと咲かせた花です。せっかく咲かせたのに受粉する虫のいないアダ花でもあります。有性生殖ができないと,種は弱体化します。1万年続くここの部族にも終えんの時が来てしまうのでしょうか。

 

 

 

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