ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

カヤランクモラン

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 10月23日月曜日。台風21号が足早に過ぎ去って,午後はすっきり晴れました。こんな時は仕事サボって秘密の「への6号」フィールドへ行きます。ここはなんと!着生ランが拾える! このフィールドは杉林で,ランがたくさん着生しているその枝が風で折れやすく,大風のあとは哀れなランたちが死屍累々と道に転がっているのです。


 あれ? 今日はないなあ。あれだけ風が吹けば,そこら中に落ちてるはずなのになあ。


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 ようやくあった。ひと枝に,カヤランとクモランが付いてました。

 

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 カヤランの,ごく若い個体。

 

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 クモラン,これで成体です。実をつけてました。なんか枝に抱き着いてるみたいですね。杉の枝の直径は1センチほど。

 


 過去に拾ったものもお見せします。

 

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 カヤランの大株です。大雪で倒れ,伐られた木に付いてました。冬に小さくつぼみができていて,6月に1センチほどの可憐でランらしい花を咲かせます。

 

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 実が付いているのも。右下に突き出してるのが実です。粉のような微細な種子を散らします。種子は運良く木の幹に付き,共生菌に出会えたものだけが発芽します。ランの種子は胚乳(養分)をまったく持たず,菌(カビやキノコ)と共生することではじめて芽生え,生長できるのです。

 

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 家に持ち帰ってから開花するのもいます。小さいけど,ちゃんとランの花ですね。

 

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 これはクモラン。葉のように見えるのは根。これ根なんです。根で着生し,養分や水分を吸収し,根で光合成をします。

 

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 緑色の,長さ2ミリほどの花をつけます。

 

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 盛大に結実したクモラン。……落下するとは。皮肉な運命でした。


 着生ランというのは,地上を離れ大木の幹や枝に根を張って生育する一群のラン科植物を指します。好事家に狙われる希少なものが多いのですが,カヤランもクモランも花が小さく地味なことが幸いして盗掘者のターゲットになることは少ない。クモランこそ県のレッドデータブックに載ってはいますが,小さく目立たないだけで実は割と生育してるそうです。それに対して同じ着生ランのセッコクや岩上に着生するウチョウランは華麗に開花してしまうもので,花目当て,転売目当ての盗掘が絶えません。あのカトレアも実は着生ランが出自です。


 言われる前に言っときます。私は野生植物を自宅に持ち帰ってしまうような下品な人間ではありません。昔の職場で,シュンランの鉢植えを持ってきてこれは山採りなんだよなんて自慢していたオバサンがおりましたが,普段から下衆な言動の人で,ああこういう人品下劣な一般人が山を荒らすんだなと冷ややかに見ておりました。やはり野に置けレンゲソウ。野生植物は野外で見てこそです。

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 じゃあなんで拾いに行くのか。正直に言うと,かつてはかなり持ち帰りました。着生ランは地上では生きていけない,それを救うためでした。でも今は拾いません。カヤランもクモランも,どちらにせよ生きていけないのです。まず環境変化に弱い。故郷の森を離れると,水を欠かさず陽にも当て,かいがいしく世話していても死んでしまうのです。弱っているのが顔に出ないのが災いして,葉が黒く固くなり,表面に地衣類が付けばもう手遅れ。連れ帰ったものが1枚でも新葉を出すのを見たことがありません。では自然の状態に近く,と庭の木に付けてみればあっという間に食べられてしまいます。癖のないお味なのでしょうか,名も知らぬガの幼虫から呆れたことにダンゴムシやワラジムシ,ザコみたいな連中にまでおいしく賞味されて丸坊主にされてしまいます。

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 葉に地衣類が付いているの,わかりますか? もう長くはありません。

 


 むかし,孔子さまの一行がある村に通りかかったとき,一人の婦人が泣いていました。かつて夫が,義父が,そして今度は子が虎に殺されたとのこと。なんでもっと安全な土地に移らないのかと尋ねると,虎ゆえにここでは過酷な政治が行われないから,と答えます。孔子さまは弟子たちに言います。覚えておきなさい,圧政は虎よりも恐ろしいものなのだと。


 着生ランたちを見ていると,なんでこいつらはこんな過酷な樹上に暮らす道を選んだのかと思います。大地に根付けば,水も,養分も,共生菌も,何不自由なく手に入るのに。大風や大雪に怯えることもないのに。……きっと地上は,乾燥や飢えよりももっと恐ろしいものが満ち満ちているのでしょう。木に這い上がるほかないくらいに。実際に落ちたランたちが瞬く間に弱り,食われ,地衣類に覆われていくのを見ていると,その感を強くします。


 結局,この日見たのはあのひと枝だけ。あまり落ちなかったのか,他の人にもう拾われてしまったか。踏まれないように,道の端に置いてやりました。何をしてやっても……とは思いつつ。

 


 わざわざガソリン代かけて,何やってるんだろうな,わし。

 

 

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