ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

糸魚川-静岡構造線を見るということ

 

 人の趣味性向とはまことに不思議なものです。どうしてここまで多様なのか。電柱を見ればみんなオシッコしたくなる,くらいにわかりやすければ世の中単純でいいのですが。


 というのも,マニアックもマニアック,糸魚川‐静岡構造線」を見るためだけのバスツアーに参加してきたんです。更新が遅れてランキング順位も下がったのはそんなわけ。


 出不精の私に声を掛けて下さったのは,これを主宰する高校の地学の先生の団体。ちょっとだけお手伝いなどするご縁なのですが,それにしてもよくもまあこんなマニアックな企画を思いついたこと。でよくもまあ人を誘うこと。もちろん二つ返事で応じてしまいました。

 

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 朝の6時に水戸を出て,静岡市の山中に14時に着き,さらに1時間山道を登ってようやく到達。はいこれです。

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 ……さすがに解説が要りますね。左側の切り立った崖が新生代の火成岩,右側の地面がそれよりはるかに古い時代の堆積岩が崩れた粘土状の地層。この崖の線が,東北日本西南日本の境目なんです。

 

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      ウイキペディアより転載したものに加筆


 かつて大陸の一部であった日本列島が東北日本西南日本に分かれて太平洋にこぎ出したのが2300万年前。そしてその1800万年後,両者は東西から引き寄せ合いぶつかり合い,そこに太平洋のかなたから丹沢やら伊豆半島やらが突っ込んできて,中部山岳地帯ができていきます。その,東北日本西南日本が衝突する一本の線,本州中部を南北250キロにわたって貫く断層線として認識されるもの,それが糸魚川‐静岡構造線(糸静線)です。

 

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 オーバーハングしてるの,わかりますか? そうこれは逆断層。ものすごい力で大地が押し合った姿です。

 

 糸魚川‐静岡と言いつつ,実は静岡市内ではこの大断層が不明瞭で,これまで良い露頭ろとうが知られていませんでした。あ,露頭というのは地層とか断層とかが地表で直接観察できる場所のことね。その露頭が,糸魚川市の方だと観光地になっている場所まであるのに静岡市でははてどこか。それが昨年,数十メートルにわたって観察できる大露頭が発見されたのです。この発見の経緯がまたすごい。大学教授を定年退官した地質学の先生が,趣味のハンググライダー(!)で飛んでいて上空からあ,あれはと見つけたのだとか。にわかには信じがたいけど,どえらい地質屋さんもいたものです。

 

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  この「新露頭」,もうすでに新聞や雑誌で紹介されていて秘密でも何でもない場所なのですが,私有地を通らねば行けない場所にあることを申し添えておきます。行かれる場合はきちんと許可を取ってね。

 

 東北日本西南日本,50ヘルツと60ヘルツ,濃い味と薄味,巨人と阪神,納豆食うか食わんか,ボケにツッコミあるかないか,宇宙人に連れ去られたことあるかないか。そんな東西の接する線が,この糸静線なのです。ぜひ跨いでみなければ,私は全国区になれません。やらいでか


 すでに何かがおかしい私ですが,そんな人たちの集まりなので違和感はありません。

 

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 これぞ「断層跨ぎ」。跨いでやったぞ千数百万年。撮ってもらったら手ブレだったけど,まあちょうどいいか。


 バーレスク東京に3日通うよりもお高いバス代払ってなにをやっているのか,とは思います。でもこれは,私にとっては水着のおネエちゃんよりも意味のあるものです。ゴルフ場で1日過ごすより,はるばる遠いラーメン屋に出向いて行列するより,ずっとずっと私の心を養うものです。知識として頭にあるものの実物を見る。自然物の知識を尊ぶ者にとって,これほど重要なことはありません。

 

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 バスは静岡からさらに奥地を目指します。山越えして甲斐の国へ。新川露頭。山梨県側で有名だった露頭で,多くの教科書に掲載され,天然記念物にまで指定されていた断層露頭でしたが,数年前の台風で崩れて見る影もありません。

 

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 西川温泉露頭。この崖が糸静線の新生代側。この斜面がそのまま断層崖。

 

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 カワラナデシコが咲いてました。水戸のより色が濃い。

 

 

 帰りの車中で私の前席の二人が面白い会話を繰り広げていました。片や地学の知識に特化した,特に新生代第四期を語らせたら無敵の50代。片や人生これからの20代。
「こないだ大洗行ったら白ぽちゃでメガネかけてリュック背負ったお兄ちゃんがいっぱいいたんだけど,あれなにけ?」
「ああそれはガルパンのイベントがあったんでしょう」
「ギャルパン? それなんのことけ?」
ガルパンです。ガールズアンドパンツァーの略で」
「ガールズ? 女の子け」
「戦車道をする女の子たちのお話です」
「それって実在すんのけ? モモクロみたいに」(もうこのあたりで私は爆笑)
「いえ二次元の,アニメなんです」
「それが何で大洗なのけ?」
「学園艦の所在地が大洗という設定で」
「がくえんかんって何のことけ?」
……以後えんえんと続くのですがこれくらいで。この年配の先生のベッタベタの茨城弁をモニター上でお伝え出来ないのが本当に残念です。


 ひとしきり笑ってから,ふと思いました。この50代にとって,ガルパンはどこか遠くにあるものです。糸魚川‐静岡構造線を見に行くことに比べれば,自分の人生に資することのない,意味性のまったく存在しないものです。同様に,大洗鹿島線の切符を買う行列に並ぶ兄さんたちには,ただガケを見るためだけに何万円もかけることなど信じがたいことでしょう。


 ひとそれぞれに好きなもの。

 ひとと違うのはステキなこと。

 それはきっと,その社会の健全さのバロメーターでありましょう。

 

 

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