ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

うちの近所のトリカブト ~冷温帯の隅っこで

 

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 日曜日は台風が来るそうです。ちょー大型台風だって。可哀そうに,各テレビ局の下っ端がカッパ着て暴風雨の下マイク持たされるのでしょう。さて私は,土曜のうちに確認しておきたいことがありました。


 行先は水戸の台地の,その北側斜面です。今は道路が走ってますが,かつてはとんでもないヤブでした。中学生くらいまでの私の遊び場です。


 以前トリカブトの記事を書いたのですが,そこでこの稀代の毒草が意外と身近にあると記しました。市の西部の丘陵地帯で確かに確認しています。が,実はある年の春にこの斜面でトリカブトの若芽を見つけていました。山菜のニリンソウそっくりでよく誤食事故を起こすやつです。市街地に隣接するこんな所で。いつか花を見てやろうと思っていました。

 

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 こんな場所です。

 

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 クズ,ヨモギ,カナムグラ,カラムシ,コウゾがわさわさと。歩道も歩けないほどにほったらかされた場所です。車の交通量は多いのですがヒトは見かけない,地方にはよくあるそんな道の傍ら。でもおかげでいろいろな植物が見られる,私の秘密の観察場所の一つです。


 で,車を停めたら目の前に

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 あった。

 

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 おいおいおい,いいのかそんなあっさりと。

 

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 烏帽子えぼしのような独特の被り物,誰がどう見てもトリカブト。この部分は正確には花びらではなくて「上萼片じょうがくへん」と言うそうです。トリカブト類は種分類が進んでいて,「トリカブト」という植物はないのだと以前に申し上げました。これはツクバトリカブトでありましょう。猛毒なのに美しい。


 せっかくなので他の植物も。

 

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 クサギの実。秋の山野で最も美しいものの一つです。花が咲くとアゲハチョウが集まるので,捕虫網を持ってよく待ち伏せしてました。環境適性が幅広く,北海道から台湾まで分布しているそうな。台湾の人も,この実をああ美しいと見てるのかな。

 

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 わーっと咲いているのはトネアザミ。関東のアザミ。

 

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 オオオナモミ。いわゆる「引っ付き虫」の一つ。外来種で,在来のオナモミはどこかに行ってしまいました。


 少し専門的なお話,してもいいですか?


 茨城県は気候区分でいう「暖温帯(暖帯)」と「冷温帯(温帯)」の境目にあります。なんてこと言うとウチもウチもと,本州のかなりの県が名乗りを上げるそうな。そりゃ海岸があって山がありゃ両方見られるだろうけど,茨城県ではそれが低地で,植生変化として観察できます。特に水戸あたりでは台地の南斜面と北斜面ではっきりと木の種類が違います。図で説明しちゃいますね。

 

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 水戸の旧市街地は東西に細長い台地に乗っていて,南側北側それぞれに長い距離で斜面が続きます。南側斜面は日照に恵まれ季節風から守られるので暖温帯の気候になり,それを代表する樹種であるスダジイが生育します。かの偕楽園に隣接する常磐神社は立派なスダジイの樹叢に囲まれてます。ところが台地の上に来るとスダジイがなくなって,もう少し寒地に対応したシラカシが神社の森を作ります。そして北側斜面。シラカシヤブツバキも散見される中,ホオノキコブシといった北方要素の木が現れます。樹種によって寒暖への耐性,あるいは好みが異なるので境界線がきっちり引かれるわけではありません。でも歩ける範囲で植生をまたげてしまう水戸の自然が,私は好きです。


 で,トリカブト類は九州にも分布してはいるけれど冷温帯要素の強い植物群です。それが家から直線距離で600メートルのところにあるんだよと,それが言いたいだけなのだ。お付き合いありがとうございます。


 暖温帯冷温帯という視点でこの日見たものをもう少し紹介させてください。ごく個人的見解なので転載しないでね。

 

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 ヤブミョウガミョウガの花が咲いたとよく誤解されますが,ショウガ科のミョウガではなくツユクサ科のヤブミョウガ。本当に葉がそっくりです。これは暖温帯要素ですが,水戸では杉林の林床を一面に埋めていたりします。晩秋,美しい瑠璃色の実が生ります。

 

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 ヤブツバキの実。暖温帯の木なのにかなり北にまで分布します。そういや「鉄腕DASH」で城島くんがこの中の種子を搾って油を採っていたなあ。DASHといえばあの番組で一番活躍していたメンバーが抜けて,どうなっちゃうんだろう。いい番組なのになあ。

 

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 私のブログでおなじみ,アケビの実が落ちてました。冷温帯要素の強いミツバアケビです。水戸ではただのアケビより多い。甘い果肉はとうに食われ,残った皮にもアリが群れてました。この実をみんなが楽しみにしているんですね。

 

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 実は私,昆虫が専門で植物には疎かったのですが,最近はおやなんだこの葉は,なんていっぱしの植物屋さんみたいなことを言ってみたり。で,なんだこの葉はと見てみたらツノハシバミでした。外国文学によく出てくる「ヘ-ゼル」がハシバミ,これはその同類です。この中にドングリがあって食べられるのですが小さくて,ハシバミのような食いではありません。冷温帯要素の木,だと思います。

 

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 ヤマブキ。どうなんでしょうこれは。冷温帯のイメージですが,九州では低地にありますか?この黄金色の花が日本人に愛されています。ちなみに思いっきり季節外れに咲いてました。もともと狂い咲きの多い花です。

 

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 水戸の台地は湧水が豊富で,市が何年か前にこんな風に整備してくれました。その後ほったらかしなのはご愛敬。その時の周辺整備のおかげで見られるようになった植物がたくさんあります。

 

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 さて帰ろうかと車を発進させたのですが,視界の端に一瞬。今日見ていない場所に何かが。思わず急ブレーキ。こんなことしてるから,わしそのうち絶対事故を起こすと思う。

 

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 コブシの実でした。コブシという名はこの実の形から来ています。「北国の春」にも歌われた,春を告げる花として北国でことのほか愛される木。私も大好きです。あの白い花を見て,私も春の準備を始めます。

 

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 水戸のトリカブト。山にあるものと比べると花色が薄めに見えます。でも十分に美しい。花粉ですら猛毒の植物がこんなに美しい花を咲かせるというこの逆説。自然とは奥深いものです。

 

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 草の露に濡れていたその1時間後,水戸内原イオン。我ながらよく動くなあ。

 

 

↓ 以前の記事

トリカブト,そは魔毒の王 - ジノ。

 

 

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