ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

ハマギクとツワブキと 高戸小浜の海の風

 

 南と北と,二つの野菊をご紹介します。 

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 ハマギク 浜菊

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 草に見えますが茎が木質化して越年します。要するに木になったキクです。白色大輪の花を晩秋の海岸に咲かせます。 米国で創出された園芸植物シャスターデージーの母種。海岸の岩場に根を張って逞しく咲きますが分布は限られ,青森県から茨城県の太平洋岸にしかありません。日本特産種で,学名にニッポン・ニッポンと付くのは鳥のトキと本種だけ。

  浜菊に 海嘯つなみは古き 語り草  /風生

  我が君の いと愛でたまふ 浜菊の そこのみ白く 夕闇に咲く  /皇后陛下

 


 ツワブキ 石蕗

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 初冬の季語だそうな。厚くつややかな葉に黄金色の花。潮風吹きつける岩場に張り付いて生きてます。国外では韓国,中国,台湾,国内では沖縄以北の海岸に生育し,太平洋側の北限は福島県だそうです。葉も花もその美しさが古くから喜ばれ,園芸種がよく庭に植えられます。
  いくたびか 時雨しぐれのあめの かかりたる 石蕗の花も つひに終はりぬ  /茂吉

 


 よくこのブログのネタにする話ですが,茨城には南限・北限,あるいはそれに近い生物がとても多い。アユとサケは仲良く遡上し,野生じゃないけどミカンとリンゴがいっぺんに採れます。ハマギク・ツワブキというこの大輪の野菊も,南方北方の覇を競うように,茨城の晩秋の海岸を白と黄色に染め分けます。

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 シロウトじゃないからわかってます。この両種は決して「仲良く」生えているわけじゃない。潮風の当たる岩場という過酷で限られた場所をえげつなく奪い合い,邪魔しあう。白と黄色の眼も覚めんばかりの花模様は,まさに相争う最前線の姿です。でもそれが美しい。以前日立の海沿いのあるホテルを会合に使ったら,ロビーにも室内にもこの二つの花が生けてありました。競い合う名花が一つの花瓶に咲き添う。支配人かフロア係かわかりませんが,もののわかっているひとであったな,と。


 さて高戸小浜たかどこはま。以前「茨城県北芸術祭・北茨城篇」でも少しだけご紹介しました。「日本の渚百選」の一つ。日立市の北隣,高萩市のさらに北部にある海岸です。崖に囲まれた小さな入り江で,真ん中に小島があって海面がUの字型になっていて,海岸の一部が砂浜です。駐車場とトイレが整備され,夏にはそれなりににぎわう小さな海水浴場でした。私はというと,それ以外の季節にやってきて海岸でぼーっと波の音を聞いていたりして,その静かなたたずまいが好きでした。

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         高萩市観光協会HPより


 過去形なのは,……そう,あの地震です。この浜も津波の直撃を受けたのです。

 

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 小島が必死に背で津波を受け止めてくれて,入り江の奥の家々は無事でした。

 

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 揺れと衝撃で小島は崩れ,立ち入り禁止に。歩いて渡れて,洞窟もあり階段もありちょっとした探検ができたのに。

 

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 津波は小島の上を一部乗り越えたようです。スカシユリがたくさんあったのに,みんな波にさらわれました。

 

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 周囲の崖も崩れ,地盤も沈下し,近づけない場所だらけに。

 

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         でも。

 

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 ツワブキ

 

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 ハマギクも

 

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 間違いなく波に呑まれたはずなのに,見事に花を咲かせています。

 

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 競い合っているのは相変わらずだろうけど,なんとなく,修羅場を乗り越えた宿敵同士がニヤリと笑いあっているように見えるのは私だけかな。

 

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 出来すぎた話のようですが,ハマギクの花言葉は「逆境に立ち向かう」。実際,東北の大津波で絶望的な被害を受けた人で,それでも海岸に咲くこの花を心の支えに立ち直った方々がおられるそうです。

 

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 晩秋。高戸小浜を海からの風が吹き抜け,白いハマギクと黄色いツワブキをそっと撫でていきます。地球は時に過酷な試練を生物たちに投げつけますが,そんな試練を乗り越えてきたからこそ今の生物たちがいるのです。

 

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 生物は儚くも逞しい。40億年ものあいだ,うち続く試練を乗り越えてきました。この生物たちの世界が,未来永劫に続くことを祈ってやみません。

 

 

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