ジノ。

愛と青空の日々,ときどき【虫】

ゆきゆきて,ヒトのいない森に踏み込む

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 久しぶりに気温の上がったその日,私は少し後悔していました。

 


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 ここは茨城の某海岸。先般,海岸で黒メノウ=オニキスを手にしました。かなり大きな晶洞付きのメノウが黒化,さらに青変までしていて感動。ぜひとも海岸での分布を調べたい。


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 テーブルの脚。だからどうしたと言われようが。

 

 そんなことを考えて海岸に出たのですが,暑い。そして体調が最悪。体温調節がうまくいってないような感覚です。そんな状態であることにフィールドに出て初めて気付くというのは,たぶん心身ともかなり疲れているからでしょう。仕事で3月から突っ走ってきたのがもう限界です。あとひと働きしたらゆっくりしましょう。ああ,もうトシだなあ。


 なんてことを考えながら波打ち際を歩きますが,この浜にメノウはないようです。ただ太平洋の荒波が打ち寄せるだけ。やがて戦果もないままに砂浜が尽き,護岸の堤防に差し掛かります。


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 どっ


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 ぱーん。海と言えば一年中こんな調子の太平洋しか知らないんだよな,わし。


 でもこの波のおかげで,海底深く沈んださまざまなお宝が打ち上げられます。


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 とはいえ何事もなし。今日は日が悪いようです。諦めて堤防の上を戻ろうとしたら,何やら誘われました。海岸林の中にすっと伸びる一本道。


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 人の気配がない。


 少なくともこの春以降,ヒトや車が入った形跡がありません。たぶんもっと前から誰もここに来てません。道の草の生え具合でわかります。堤防の下の砂が浸食されて海側からは車が入れなくなっています。


 つい目の前の海岸にはサーファーが群れているのですが,こういう人達は車で入れないところには来ません。海水浴場ではないのでそれ以外の一般人も来ない。まるですぽんと現れたエア・ポケットのように,ここだけ誰もいない森。


 フィールドをひとり逍遥と歩いていると,たまにこういう森に出くわします。あれここはどこだろう。よく知っている場所でも,谷筋一つ越えたところで出くわしたりします。人跡のない静謐な,異空間としか言いようのない森。ヒトではないモノがそこここに潜んでいるような妖気が漂います。次に来ようとしてもなぜかたどり着けない異界の入り口。もしそこに家があれば間違いなく「遠野物語」の「マヨイガ」なのであろう,そんな不思議の森です。残念ながら宝物を得たことはありませんけど。


 海岸の石拾いの装備で歩いています。このまま森は危険です。用心深いことが取りえなのですが,なのに誘惑に逆らえません。自然に,本当に誘われるように分け入ります。


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 不思議とこの森のクロマツは松食い虫にやられてません。

 

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 わあドクウツギ。あるんだ。


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 オオマツヨイグサ


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 オカトラノオにアカハナカミキリ。いっぱいいました。山の生きもののはずなのですが。


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 アオハダトンボの雄。なんか物思いにふけってました。しばらく見守っていたら信用してくれたようで,そばに寄らせてくれました。 …… アオハダトンボ!? よく考えたら清流のトンボだぞ。なんでこんな海岸林にいるんだ。地図では半径三百メートル以内に清流どころか水場はないはずです。何があったんだろう。考え込んでいたのはそのあたりか。


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 ヤブカンゾウ。種子を作れない宿命を背負ってますが,にぎやかな花を咲かせながら栄養生殖で増えていきます。逞しい野の花です。


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 生きものたちに袖を引かれ,森の奥まで誘いこまれそうです。危ない。人の往来が途絶えると,森は瞬く間にそういうものの潜む場所になります。八溝山でも体験しました。

 

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 人跡未踏の理由がわかりました。陸側の入り口がゲートで閉じられてます。ああ来た道を戻るしかないなあ。少し怖いなあ。


 首都圏からゴミを捨てに来る業者とかがいるので,最近は県内どこの林道もこんな風に封鎖されてます。おかげで一般人も来なくなります。私のような歩くことを厭わない,そしてヒトの痕跡を好まない人種には歓迎すべき風潮ではあります。ただその森が少し怖い場所になる。


 ともあれマイペースに過ごせた時間になりました。いつの間にか体調も良くなっています。


 ふだん何百人もの人間を相手に仕事しているので,人と会わずに過ごす休日というのが私にはとてもリフレッシュになります。さあ明日はまた頑張ろう。

 

 

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