春のころのお話です。
阿武隈山地,茨城県内ではおもに古生代の地層から成ってます。マグマが冷え固まった火成岩や,それが時の試練の果てに変質した広域変成岩が大部分なのですが,日立市の一部に石灰岩があります。わかりやすく言うと,当時の海の生物の殻が固まったものです。学校で習った古生代の海生生物,いくつ言えます?
三葉虫,フズリナ,四射サンゴ,腕足類,サメ類,海サソリ……。
わあ,どれもこれも図鑑の絵を穴が開くほど見つめたクリーチャーばかり。化石があるの?
いえ,ほぼノーです。日立の石灰岩はみな「結晶質石灰岩=大理石」です。元は化石でも変成作用を受けてみんな溶けちゃってます。…… と思っていたらある地質屋さんからの情報「〇〇のあたりならウミユリあるよ」。
よっしゃー! あとは得意の地質図で当たりを付けて出撃じゃあ。
ちなみに岩手県・遠野の鍾乳洞「滝観洞」の内部。まわり全部ウミユリ。壮観でした。
さて今日のフィールド。常磐自動車道に沿った場所です。道端に
オドリコソウ。子供のころ以来じゃないかな,まじまじ見たの。好きですよ,この花。
マルバアオダモ。バットに使うトネリコのなかま。これも私には春のシンボルです。
さっそく森の中に白い岩。
寄ってみると果たせるかな,石灰岩です。すでに雨に浸食されて表面が波打ってます。
で,ぶっかいてみたんだけどキラキラと,すっかり結晶化した大理石。ここではないらしい。
さらに進まねばならないのですが …… おい何かイヤな雰囲気だぞ。
あ,いやだいやだ,アレです。人が来ない場所,何かある場所独特のあの空気感。八溝山やつい先日の海岸林で体験したアレ。侵入者を拒絶するずしりと来る妖気っぽいの。
進みたくはないのですがそれではここまで来た意味がなくなります。よく晴れてまだ陽も高いことを後ろ盾に,前進!
なんだこの看板。
看板はあるのに人の歩いた形跡がありません。人が来ないのには必ず理由があるはずなのですが,あえて考えないことにしよう。
踏み跡には絶対生えないニリンソウが花盛りです。最後に人が歩いたのはいつのことだろう。 え?だってここ,人口十四万の工業都市の市街地のすぐ裏手だよ?
ん? 何かある。
やめてくれよう 石なんか積むなよう 何があった場所なんだよう
石積みが次々と現れていい加減心が萎えきったころ,また標識が。
トンネル,と差されたほうは道が消えてます。行っちゃあなんねえど。
みはらし台,とあるほうもあまり人跡がありません。ハイキングブームのこのご時世に。咲き乱れるニリンソウまでが何か象徴的に見えてきました。いったいここはどこなんだろう。
で,あるんだよこんな場所に,石が。これは石英のペグマタイトかな。
石灰岩。残念ながら少し変成しています。
これは変成の程度が弱くて,何かの形が見えます。
とはいえ持ち帰るほどの形象があるでなし。何よりここの石は持ち帰らないほうが無難な気がします。たぶんこの辺りを丹念に探せばもっとはっきりした化石があると思いますが,そこまでして何か代償を払う羽目になってもつまらない。もう退散しましょう。
ああまたおかしな森に出くわしてしまった。最近こういうことが多いなあ。いつか変なモノを背負って帰ることになったりしたらヤだなあ。